Music Video | Happy Hour 《 マンJ | ハッピー・アワー 》
Happy Hour (ハッピー・アワー / プロット)
誰かが歩いて来た。—— どうも、その彼は疲れているようだ。
河原の土手を歩くその様子は、ただ右から左へ、少なくとも元気ではない。私にはそう見える。
ギターを担いで、どうにも進めず、どこへもその足取りは重いようで、それでいてまったく実感のないような重みすら無い行くあてを見失った足。
『どうしよう?』—— このまま彼を見ていようか?
別に赤の他人がどうであろうが、関係も無いし、そんな時間はもったいない。……とは言っても、別に他に用事があるわけでもない。
空は朝なのか、夕なのか、どちらでもよいというような中途半端な空が景色を作っていた。
『ちょうどいい』
私にも、そんなことがある。そんな時もある。そんな気持ちに自分自身が空になったような、そんな風にそれでも迎える朝がある。ただ歩いてもなにも見えて来ないようで… 彼もギターを持っているということは、きっとミュージシャンへの夢にそれなりにがんばっているのだろう。
『しかし、そう、うまくは生きれないものなんだ。』
おや?
それは突然、そこにあった。 ずっと前からそこにあったのか、それとも突然、ここにあるのか。
ポストと言うには小さく、標識でもないそれは路上パーキングのコインを入れるあの機械のような形状で、上部に取り付けられた長方形のボックスの前面には、それと同じ様にコインを入れる穴があり、その上にはただ覗き穴があるかのように、なにかレンズのようなファインダーのような部分がある。
—— Happy Hour
「ハッピーアワー」ただ、そう書かれている。
こんな歩道になんの為に、そしてなによりも、なんの機械なのかさえ不明なそれを、ただ眺めている。
ただ逆らわずに、なにも考えもせず、彼はポケットから財布を取り出した。
『おいおい!?そんな怪しいそれに、金入れてみる気か??』
彼は100円を取り出し、それに入れた。
そして、ファインダーのような穴を覗き込んだ。
(♪Music Start)
穴の向こうに、誰かが見える。
どうも、その女性はバレエを踊っているようだ。
初夏のような湿度が昇華したような青空に柔らかくも意志の強そうな真っ白な雲が流れている。
彼女の住む街なのだろう。空と等分に分けて、程よい緑とたくさんの屋根。それなりの住みやすさを感じる。穏やかな街だ。
どこにでもある街。
特に、なにも無い街。
知りもしないのに、それでも、なぜか知っているような。似た様な街が、結局どこにでもあるってことだ。
彼女が鏡を見つめてる。
さっき、また同じところでターンを失敗していた。
これもまた、誰にでもあることだと思った。
上手くはいかないことがたくさんあるんだ。
そうしたら、そうやって、鏡を見るんだ。
鏡を見ているのか、鏡に映った自分を見ているのか。
鏡の向こうの自分は、自分だろうか。
向こうの自分なら、上手く踊れるだろうか。
彼女の顔は、どちらの彼女も今、悩んでいるように表情が無い。
ただ闇雲に、何度も繰り返し踊る。
ただ疲れた様に彼女はまた、鏡を見て、灯りを消した。
上手くは言えないが、ただなんていうか、大袈裟に言うと、自分以外の誰かが生きていることを、まるでもうひとりの自分が生きることのように感じた。
また今日も、彼女は踊る。
何度も何度も、踊っていた。
そしてまた鏡を見つめいていた彼女は、突然泣き出した。
思いっきり投げ捨てたシューズが、鏡の向こうの自分をぶった。
悲しげな思いと一緒に、どういうことか、彼女のことを信じてた。
大丈夫。必ず乗り越えられるよ。そう伝えてあげたかった。
いつかの帰り道。
どうしても自信を失った彼女が歩いている。
たまに少しステップを踏んで歩くいつもの道。
たまたま雨上がりの水たまりに気付いていない彼女は、ふと踏み出したそのつま先が水たまりに落ちた。
落ちた。はずだった…
不思議な事に、彼女は水たまりに落ちずに、その上を浮いて、そのまま通過していた。
驚いたが、実はその時、一瞬だけどなにか黒い影を見た気がする。
黒い影が、彼女を水たまりに落ちない様に助けたのだ。
その黒い影を見たのは、その後にも何度かあった。
公園の池のほとりに腰掛け、その時の彼女はひどく落ち込み、うつむいたままただずっと池の水面に目を落としていた。
その時もそうだった。
あるはずもない花が、池の水面に浮かび、彼女の前に流れて来たのだ。
その時も、黒い影がふと花を運んだように見えた。
その花のおかげで、彼女は少し、自分を取り戻した。
きっと誰もがそうだ。まるで意地悪かのように、この世界で生きる難しさを、どうしようもない昨日や今日に向けて、まるで他人のせいにしてしまうように、自分なんてと、自分を責めてしまう。
だけど、今ではこう思う。
自分を責めていたのは、とても間違いだと。
それはまるで鏡に映った自分に責任を全部なすり付けて、その向こうの他人の自分に対して、どうせあなたはダメなんだって、だから自分までこんな目に遭うんだって。そう言っているようなものなんだ。
そうして自分は、同じ場所に留まって、ただ落ち込んで、ただ慰めて、あたふたと毎日毎日、同じ様な努力だけ重ねて。
だけど信じてる。本当は知っている。もっとあなたは踊ることができるって。
鏡の中にいる自分は踊っている。
だから、自分も踊れるんだって、だったら向こうの自分にも笑顔で応えてあげたなら、それが本当の自分になる。
まるで自分以外の誰かを応援するように。
真っ暗な夜空を彼女は見上げた。
その瞬間、星が空に広がる。
その時、確信した。
黒い影は、その時、彼女を護る様に、流れ星を空に贈った。
そしてまた彼女は踊る。
あのターンを今度こそ踊れる。そう確信していた。
ところがその時、悲劇が彼女を見舞った。
シューズの紐が解けかけていたのだ。
頼む。頼むから解けないでくれ!そう祈った。
その日、彼女は最高のダンスを踊った。
黒い影は、彼女のシューズの紐を結び、彼女を舞わせた。
その時、黒い影の顔を見た。
紐を結んだ影は、僕だった。
視界の中に点滅するメモリが見える。
鏡に向かって笑う彼女。
覗き込んだ世界。
あと5秒…
一瞬で幕が閉じるように真っ暗になった。
覗き穴から目を離す…
—— Happy Hour
ハッピーアワーという文字が視界に入る。
どのくらいの時間が経過したのかはわからないが、我に返ると、ほんの一瞬のことだったように思えた。
ほんの一瞬、僕は、彼女に恋をしていた。
ただ誰もが同じ様に、あなたのことが心にいつもあって、ただどうしようもなく、時間なんて忘れて過ごした幸せな時間。
そして知ったのは、想いは繋がっているということ。
それはたぶん、鏡の様にも、向こうの自分とも、そして、どこかに生きる誰かとも。
誰かの想いが、誰かを支えていて。
誰かの祈りが、誰かの奇跡を見舞い。
誰かの夢が、何処かの街の空を描いている。
ただひたすらに自分のままに生きる誰か。
そんなあなたの姿に呼びかけるように、また誰かの想いがこの世界を彩る。
だけど殆ど誰もがそれに気づくことができないまま、いつのまにか見知らぬ自分に縛られて。
きっとあなたもそういうことで。
あなたに見とれた分だけ、僕は時間からほどかれた。
どこにでもある、なにも無い街。そこに生きて。
こんなことはどこにであって、瞬きをする間に、すべてはハッピーになる世界。
またギターを持ちながら、はじめよう。と思った。
覗き穴から目を離す…
ゆっくりと顔をあげる。
その顔は、ギター弾きの彼ではなく、バレリーナの彼女だった。
(♪Music End.)
歩き出す彼女。
彼女の後ろ姿に重ねて、見えた文字。
—— Happy Hour
視界の中に点滅するメモリが見える。
覗き込んだ世界。
あと3秒… で、時間は終わる。
「ありがとう」
一瞬で幕が閉じるように真っ暗になった。
end.
「Happy Hour(映像制作の為の原案)」20140706
【HappyHour】ハッピー・アワー / マンJ MusicVideo 2014
Cast:Yuu Hashimoto & マンJ(Izumi Modern J, Hideki Ichikawa, Takehiro Asada, Kyohei Ikeda)
Screenplay/Director/FilmEditor/Production Design:Ms* Ourmaker.
Staff:Ami, Haru, & Man-J
choreography/Dance improvisation:Yuu Hashimoto
Special Thanks:BASEMENTBAR, SalonO, AuroraBirthday
Music「ハッピー・アワー / マンJ」作詞作曲:市川秀樹 / 編曲:マンJ
Produced by Manj & ©Ourmaker Inc.
Music Video | Happy Hour
《 マンJ | ハッピー・アワー 》 2014(Japan)
Words and Music by Hideki Ichikawa (Man-J). Story&Directed by Ms* Ourmaker.
Produced by Man-J & Ourmaker Inc.